高齢者リハビリテーションの課題とこれから求められるリハビリの方法

高齢化が進む日本では、機能回復を目指すリハビリだけではなく、障害を持つ人々が生きがいを持って生活できる環境作りが必要とされています。しかし、現在行われているリハビリテーションに課題が無いわけではありません。これからのリハビリは、高齢化の傾向に合わせ、関係各所が連携して行う必要があります。

高齢者リハビリテーションの課題

高齢化が進む日本では、これまで健康に生きてきた人たちでも、転倒して怪我をするなどして、リハビリが必要になることが考えられます。また、すでに心身に障害を持つ方の高齢化が進んでいることも懸念材料です。高齢者のリハビリテーションには、大きく分けて2つのスタイルがあります。「施設でのリハビリテーション」と「通所リハビリテーション」です。施設でのリハビリテーションは、多くの場合、自宅での生活に復帰することを目標として行われます。通所リハビリテーションは、自宅で生活している人がさらなる自立を目指し、老人保健施設などに出向いてリハビリテーションを受けるスタイルです。

ますます高齢化が進む日本社会の将来を見据え、日本政府はすでに多くの研究を行っていますが、現状、これらのリハビリテーションの現場には、まだまだ課題は山積していると考えられます。ここからは、政府としてすでに課題は認識しているものの改革が難しいリハビリテーションについて、現状を確かめながら、今後あるべき姿について探っていきます。

身体機能に偏るリハビリテーション

在宅高齢者の多くが、老人保健施設等での通所リハビリテーションに通っています。彼らが自宅で暮らしていてもリハビリテーションを続ける理由として挙げているのが、筋力や体力の増強であり、これらは身体機能の改善です。もちろん、障害の度合いは人それぞれであり、人によりリハビリに求めるものには違いがあります。

身体機能の改善以外にも多くの人がリハビリを続ける理由に挙げているのが「日常の動作」や「社会的な活動」への復帰です。

ただ、現場で行われているリハビリは、現在も身体機能回復を目的としたものに偏りがちです。身体機能回復を目的としたリハビリテーションは、主に医療の場面で行われますが、通所や訪問リハビリテーションでも身体機能回復を目的とした訓練が行われることが多くなっています。生活機能向上へのニーズがあるにもかかわらず、あまり実施されていないという現状は、高齢者リハビリテーションの大きな課題であるといえます。

多様なニーズを考慮する必要性

訪問リハビリテーションの場合も、通所リハビリテーションの場合も、提供されているリハビリの内容はほとんど同じです。すでにお話ししたように心身機能の向上に重点の置かれる「関節可動域訓練」「筋力増強訓練」「歩行訓練」などは、訪問、通所共に多く提供されているプログラムです。しかし、生活機能の向上を目指す訓練は「趣味活動」が約1/4の通所リハビリのメニューに取り入れられているのみで、高齢者からの多様なニーズに応えられていない現状が浮かび上がってきます。(参考:生活期リハビリテーションに関する実態調査https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000051903.pdf)

画一的に行われているリハビリテーション

高齢者のリハビリでは、個々のニーズ、とりわけ生活機能を向上させるためのプログラムの導入が求められます。ただ、機能回復のプログラムにおいても、何か画一的なリハビリが行われている可能性は否定できません。それは、定期的にリハビリプログラムに参加している高齢者の多くが、個別のリハビリを行う時間を20分と回答しているからです。(参考:介護サービスの質の評価に関する利用実態等を踏まえた介護報酬モデルに関する調査研究事業https://www.mri.co.jp/project_related/hansen/uploadfiles/h23_06.pdf)

また本来、ゴールを見据えて行う必要のあるリハビリですが、多くの高齢者は、通所介護を利用しているときにだけリハビリを受けていて、通所を終えた後の生活が、高齢者の中に描かれていないということも課題だといえます。

リハビリテーション終了後の生活について

せっかく一定期間リハビリに通っても、目的のはっきりしない、画一的な内容ではリハビリを終えた後の生活のビジョンが見えてきません。実際、多くの専門職が、リハビリに通う高齢者の出所後の生活について、具体的なイメージを持っていません。また、専門職とリハビリを利用する高齢者の間には、リハビリに対する認識にずれがあることもわかっています。多くの利用者は「状態改善」を目指しているのに対し、専門職は「状態維持」を目指し、どちらもそれが効果的だと考えているからです。

今後求められる高齢者リハビリテーション

高齢化社会における高齢者のリハビリは、機能回復を目指すことはもちろんとして、医療や社会が一体となって、実生活や社会における存在意義を自覚させることが大切です。これから医療や社会全体が、高齢者や障害を持つ人々のためにできることを考えます。

高齢者のやる気を引き出すリハビリテーション

高齢化が進み、街に出ても高齢の方の姿が本当に目立つようになりました。病気や障害を抱えながらも元気な高齢者もたくさんいます。豊かに、そして楽しく老後を送りたいという高齢者の気持ちを理解し、身体機能に偏ったリハビリから、生活機能の向上に役立つリハビリなど、幅広いニーズに対応することが、今後はさらに求められるでしょう。

また、老いるということは、以前できたことが、そのとおりにはできなくなる、ということでもあります。しかし、機能回復を望む高齢者にとって、これはなかなか理解のできないことでもあります。この点において、社会の一員である私たちができることはまだまだあるといえます。高齢者のやる気を引き出しながらも、能力の限界を悟ってもらう努力をすることは、医療や介護関係者だけでなく、社会全体の役目です。

個別・そして適切なリハビリテーション

リハビリに臨む高齢者のニーズはさまざまです。家族環境、社会環境、経済力…さまざまな要素に我々人間は左右されます。一人ひとりが個性的であるからこそ、画一的ではない、個別のリハビリが提供されるべきなのです。また、何事にも当てはまることですが、リハビリにおいても目標を設定することは大切です。漠然と行うリハビリは、適切なリハビリではありません。

活動型や参加型リハビリテーション

医療リハビリテーションで主に行われている身体機能回復のためのプログラムが、実は多くの訪問リハビリテーションや、通所型リハビリテーションでも「偏った」形で行われているという事実。「活動」や「参加型」のリハビリテーションを求める声は多くあるものの、それに応えられていないのが現状なのです。日常生活におけるさらなる自立や、社会参加を促すことは、高齢者の生きがいとなります。高齢者の地域社会へのデビューを促すリハビリテーションが今、求められています。

サービスの連携

高齢者が在宅で受けられる、訪問リハビリテーションや通所リハビリテーションのサービスは、ほぼ独立して行われているのが現状です。住み慣れた我が家で生活ができることは、多くの高齢者にとってこの上ない喜びですが、医療や介護など、サービス間の連携がとれていないため、包括的でスムーズなサービスが提供できないのです。個々の利用者に関わるサービスが、情報や課題、評価を共有することで、より良いサービスにつながります。